last modified 2000-01-30
目次
高橋葉介作品では,タバコがさまざまな場面で小道具として使われている。 タバコが使われていなかったり魔実也氏がタバコを喫んでいなくても作品内容に差異があるわけではないが, とりあえず演出の小道具としての煙草の用い方に注目するのは,一つの有効な作品分析手段だと思う。
いっぺんにみるのは無理だし,まずは氏の主要作品である夢幻紳士怪奇編,
及び夢幻外伝における使われ方に限定してみてみたい。なお,使用した資料は,徳間書店刊,
夢幻紳士怪奇編一〜三,朝日ソノラマ刊,夢幻外伝
1 死者の宴,2 夜の劇場,3 目隠し鬼。 これらの作品集の中に他の短編が収録されている場合でも,それらはさしあたり度外視した。
さて,夢幻紳士怪奇編第一話から順に見ていき,最後に類別を行い,まとめてみよう。
イントロでいきなりタバコに火をつけている夢幻魔実也。葉介センセも怪奇編一の後書きで, 「これではまるで十三・四歳の子供ではないか。タバコなんか吸ってていいんだろうか」なんて書いてる。 作品の演出としては,導入の役割をタバコが果たしている。吸ってるタバコはなんだろう。 ヒトコマ目にSTARの字が見える。たしか両切りのタバコを吸っていたはずだから (学校怪談第227話[ホテル・くだん(後編)]参照),両切りなのは間違いない。暁かなぁ。[と書いてましたが,「STAR」10本入りの両切り煙草,というのが正しいようです。2001-3-21訂正*註]
「横溝教授」に,事の顛末を語る魔実也氏が,話の合間の一服として火を付けている。
「吸血鬼」に語り掛ける魔実也氏。語り始めにタバコに火をつけ,語り終わって灰皿で火を消すと,場面が一期にクライマックスへと連なる。
「沼」の水を飲んだ魔実也氏の友人(?)が一息ついて,事情を聞いた後, クライマックスへといたる直前に魔実也氏は語り掛ける。そのときにタバコをくゆらすのが, クライマックスへの布石になっている。
幽霊になってしまった,魔実也氏の「先輩」の奥さんの話。 動揺し落ち着きの無いタバコとして描かれているのがその「先輩」のタバコの喫み方。 すべてが終わっていやなことが空のかなたに消えて行くかのようなタバコが, 魔実也氏のタバコの煙として描かれている。
やはり導入でタバコが使われている。どうも導入でタバコが使われるのはどこで起きているのかがはっきりしないような話のときのようだ。
ここでも導入でタバコを喫む魔実也氏が描かれている。というか全編タバコをくわえている。しかも最後にもタバコに火をつけている。
この話だと何もやってないしな,魔実也氏。そのせいかタバコも立ち姿がさびしいから手に持ってるみたいな感じ。
う〜ん,有名なフタコマ目。それはともかくこの話ではタバコが出てこない。
葉介センセおとくいの空想上のいろんな「もの」が出てくる話。なんだか「いいお兄さん」だ。ここでもタバコは登場しない。
女性の飛び降りから始まる「ファンタジー」。 タバコを「昇降機」のなかでくわえることが,話が展開するきっかけになっている。 この話ではめずらしく魔実也氏と対等っぽい新聞記者が出ている。 この話では起承転結の承と結のきっかけにタバコが使われている。
いやあとても大きな蜘蛛だよってアトラク・ナクアを紹介するのはどうかと思うなぁ。 おやじさんよ。ちなみにこの話での魔実也氏はろくでなしである。あっそういえばタバコ喫んでないな今回。
導入,女を待ってる間,コトが終わった後,都合四回タバコを口にしている。 場面転換すべてにタバコが使われている。 名台詞「夜の闇は私の古い友人でしてね。なにも恐れるものではありません」が登場している。 かっこいいけど雰囲気最優先の作品であるせいか,場面転換に困ったんだろうか。とかおもわず邪推。
花火の幽霊がなんであるかを語るに際して紫煙をくゆらせている。 いわば起承転結の承を示すシンボルみたいな感じかな。
今回はタバコが出てこない。女がからむとタバコを喫みまくるかまったく喫まないかのどちらかだな。 てのは断言し過ぎか?
ああ終わった,って感じの一服。蛇は学校怪談の「渡り蛇」にも出てきた。
終わりにいたる,起承転結でいえば承の終わり,結の導入で,魔実也氏はタバコに火をつけている。
最後に紫煙をくゆらす魔実也氏。話を締める役割を果たしている。
溝呂木博士に引導をわたす直前にタバコを加えている。そして最後に語りべとして歩みを進めるときにも紫煙をくゆらせている。
イントロで女性を覗き込む魔実也氏は学校怪談のなかで幼い九段九鬼子を覗き込むときと似たような感じがする。 最後に後日談みたいにして下宿(お金は払ってないらしいが)の部屋の窓際で一服している。物語の終結を示す一服。
「奥さん」をふとんで待つ間,タバコをふかしている。タバコは起承の間に使われている。 意図的に「ま」を入れたい場合に使われているようだ。ある意味普通の使われかただなぁ。
なんだかファンタジイだ。この回,魔実也氏は一度もタバコを口にしない。
魔実也氏は前半ずっとタバコをくゆらせているが, 最後に火向子の思いを遂げさせるよう意図的に室内でマッチを擦って火をつけている。 この話と次の外伝2一話目のように,タバコ自体,あるいは火が重要な話もある。ちょっと派手でいい感じだ。
[人でなし]同様,タバコと火がキーワード。 「困ったのはタバコが吸えないことだ。マッチをすってもすぐに火が消えてしまう。」 この台詞が「屋敷」の状況説明のための場面転換に出てくる効果的な演出。しかもこの回,魔実也氏はタバコを使った手品まで披露している。
この回魔実也氏はタバコを口にしない。や〜な話だが,オチがどうもギャグっぽい。
語りべとして「夢」を見せる魔実也氏。その導入でタバコをくゆらす。これは夢だぞというサインでもあるようだ。
心理的な描写が印象的な話。起から承へと移り行くところで「ま」を入れる役目をタバコが果たし, 最後に幕を引く直前にもタバコが登場する。ただし最後の場面では煙は出ていない。
あれ。タバコ吸ってないな。 「ご心配なく。あなたの寝顔に見とれていた者です」 の名台詞が登場する。
どうやら「子ぼんのう」な役回りのときにはタバコを喫まないらしい。
大木を挟んで「機内克夫」と背中合わせになっているところでタバコを喫いつつ話をする魔実也氏。 肝心なことを言うところで深く吸い込んだタバコの煙をゆっくりとはくことが「これがキータームだ」 ということの暗示にでもなっているようだ。
魔実也氏はタバコを口にしない。でも那由子さんでてるし。なにがでもだかわからんが。
結に至る前の「ま」をタバコが持たせているようにみえる。
導入と最後に一服する魔実也氏。そこで一応の話が完結していることを暗示しているかのよう。
また導入の船の上でタバコすっとる。怪奇編の一番最初の「幽霊船」のようだ。
そうか。女の霊がからんできてそれに直接に触れる必要がある場合にはタバコをふかさないみたいだな。 その霊が基本的には質の悪いものというより,哀しい愛の形であるときにそうらしい。
おお。ずっと咥えタバコをしている。怪奇編シリーズを通して唯一の無声。最初の被害者にかんしてはえぐいけど,終わりはファンタジイだ。
[泣きぼくろ]のところで書いたことが当てはまる感じだ。こっちはなんだかえぐいけど。
これは[泣きぼくろ]のところで書いたことが当てはまる感じがいっそう強いように思う。「黒い天使」は,魔実也氏を解くキーワードのようだ。
こうしてみてくると,タバコの使われ方がいくつかのパターンにわけられそうだ。
起承転結のきっかけをつくるか,「ま」の役目を果たす一服。導入の場合も入るかな。ほとんどの場合はこれですね。 で,さっきも書いたけど,女の霊がからんできてそれに直接に触れる必要がある場合にはタバコをふかさないようだ。 その霊が基本的には質の悪いものというより,哀しい愛の形であることを暗示しているかのようだ。 [鬼][泣きぼくろ][酒毒][黒い天使]あたりがそうかな。ということであまり包括的な考察にはなっていないが, 高橋葉介作品全体をみてのまとめは又の機会に。
written by 睡魔*註:Living Shop ANDO(http://lsando.alphasystem.ne.jp/)にタバコ関連での情報がでていまして,そこで検索すると「STAR」の情報が確認できます。これは,当サイトの掲示板(仮想井戸端会議室)で,「怪奇編第一夜で、夢幻氏が吸っていた煙草は、「STAR」10本入りの両切り煙草。明治41年1月31日〜昭和5年8月30日の期間販売。後廃止された物だと思われます。」との2001年3月9日,誣月 故(フヅキ ユエ)さんからのご指摘で訂正しました。誣月さん,ありがとうございます。