宵闇

「ついに貴方をこの手にしましたよ、九鬼子さん」
溝呂木の腕には、眠っているのか力無い九鬼子の姿があった。
そして、その細身の体にしては軽々と九鬼子を両の手に抱える。
「それがお前の本当の力か」
唐突に、溝呂木の背後より澄んだ声が響く。しかし溝呂木に驚きの色はない。
ゆっくりと口に笑み浮かべて、溝呂木が振り返る。
薄闇の中に、微かな細身のシルエット。おそらくは鍔広の帽子。
そして、一点だけ赤く煙草の光。
「滑稽な道化の仮面の下に、そこまで禍禍しい力を隠していたか。九鬼子もとんだ奴に魅入られたな」
「貴方にも、いつか出会うと思っていましたよ」
影がゆっくり溝呂木へと近づいてくる。
「はじめまして、溝呂木君。そしてサヨナラだ」
「出来ますか、貴方に?」
その問いに、影が口にしていた煙草を地面に捨てる。
そして、吸い殻を軽く踏みにじる。口元に苦笑が浮かぶ。
「嫌な事を聞く」
そう言いながらも影が何を警戒するでもなく、溝呂木へと歩み寄る。
何を思うか溝呂木は動かない。影の伸ばした腕が九鬼子に届いた。

九鬼子は目を覚ました。一瞬の空白の後に、現状認識する。
ここは・・・私の部屋だ。いつ、帰ってきたんだっけ?
上半身だけを起こして、九鬼子は部屋を見回す。
昨日は・・・うっ!
突然、襲いかかった頭痛に額を押さえる九鬼子。

「さすがですね。ここまで力を打ち減らされるとは思いもしませんでしたよ。
今回は引きましょう。また力を貯えないといけない。しばらくはクッキーと遊ぶ事にしますよ。また会える日を楽しみに・・・」
「ごめんこうむる」

え? なに、今の!?
・・・って、アレ? 今なにか思い出したような気がしたんだけど。
そう頭を捻る九鬼子は、自分の体にまとう煙草の匂いが、普段吸う銘柄の物とは違うのに気付くことはなかった。


written by 蒼牙
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