『死刑宣告』

「夢を見たんです」
 と、僕、山岸涼一は口を開いた。

 昨日見た夢なんですけど。
 僕は教室で、九段先生の補習を一人で受けてるんです。
 そしたら教壇の九段先生が、出席簿を確認して。
「ああ、山岸。お前、死刑が決まったから」って、僕に平然と死刑宣告を下すんです。
 なのに、僕も妙に落ち着いていて。
「ああ、僕、死刑なんですか」って、素直に納得するんです。
 別に諦観してるって感じでもないんだけど、九段先生が言うんならしょうがないかって。
 それから、僕の死刑は深夜に執行されるって聞きました。
 そのまま僕は、教室に収監されて。
 収監されたって言っても教室だし、教壇に九段先生が居るだけです。
 だから、いくらでも逃げ出せるんだけど、不思議と全然そんな気にならないんですよ。
 それから、まあ、何もせずに時間はどんどん過ぎて。
 不意にケータイが鳴って、慌てて取ったら立石さんからでした。
 明日は土曜だし、どこそこに遊びに行きましょうって、立石さんが誘うんです。
 僕がもうすぐ死刑になる事を、立石さんは夢にも思ってないんだろうな。
 なんて僕は思いつつ、「ああ、面白そうだね」とか返事をしてるんです。
 本当の所、僕の罪状は何なんだろうって九段先生に聞くと、僕に罪はないって。
 でも、もう決まった事だと九段先生が冷たく突き放すから、そんなものかと納得するんです。
 そのうち陽もすっかり落ちて、死刑執行時間が迫ってきて。
 さすがに、僕も落ち着きが無くなってきて、胸の鼓動がどんどん早くなる。
 刻一刻と、僕の生きていられる時間が削られていく。
 僕は死にたくはないんだけど、かと言って逃げようって気にもならずに、悶々とするんですよ。
 ふと、最後にお母さんに声をかけとこうと思って、ケータイで家に電話をしました。
 けど一体、お母さんに何て説明すればいいんだろう?
 僕はもうすぐ死刑になります? 何の罪もないのに?
 でも、結構コールしているのにお母さんは電話に出ない。
 教室の時計を見ると11:50。
 僕の死刑執行時間は12時ジャストだ。
 でも、お母さんはまだ電話に出ない。
 ガラガラと扉の開く音が聞こえてそっちを見ると、薄ら笑いを浮かべた八千華でした。
 八千華がキャスター付きの電気椅子を、車椅子みたいに押して教室に入ってくる。
 もう、時計の針は11:55を示している。
 いざ死ぬとなると、胸がキリキリ痛むほどに怖い。
 だけど、それよりも。母さんに、父さんに、何も伝えられない恐怖の方が強くて。
 何を伝えたいのかなんて全然判んないんだけど、
「まって! せめて、せめて誰か出るまで!」
 って、電気椅子に縛り付けられながらも、刑の執行を何とか待って貰うんです。
 でも、コール音は無限に鳴り続けて・・・・・・



「そこで目が覚めたんです」
「で、これはギャグなのか?」
 目の前の九段先生が何とも言えない表情で、僕に聞いてくる。
「ギャグなんかじゃありませんよ! もう、本当に怖くって!
 起きた時なんか心臓が破裂するんじゃないかって位、ドキドキしてたんですよ!」
 思わず立ち上がってまくし立てた僕は、一息ついた。
「ハァ、今日もヤチカから面倒な話しを聞いたばっかだってのに」
「え?」
「あ、いや。何でもないよ」
 九段先生は僕に、ヒラヒラと手を振った。
「夢とはいえ、自分が生きていられる時間が削られていくって凄い恐怖なんですよ。
 よく判らないんだけど、僕、どうしたらいいんでしょう?」
「ええいっ! 思春期だから、そんなワケわからん夢を見るんだ!
 校庭10周くらい走って、そんなモヤモヤ吹き飛ばしてこい!!」
 九段先生に怒鳴られて、僕は職員室を飛び出した。
 当たり前だけど、九段先生が、夢の九段先生と違っていつもの九段先生だったのが嬉しかった。
 そして、校庭10周の根拠は疑問だったけど、僕は校庭に駆け出していった。


written by 蒼牙
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