ここは3−Cの教室、山岸の担当する国語の時間だった。
「ねぇねぇ、幸恵、あの噂知ってる?」
智子は隣の席の幸恵の腕をつついてぽしょぽしょと言った。
「知ってる知ってる。山岸先生の噂でしょ。」
「そう。なんだか超能力者?みたいだっていうあの噂。」
「お化けだかユーレイだかを一発でやっつけちゃったって言うあの噂でしょ。」
「あの姿を見てるとそうは思えないわよねェ。」
当の涼一は、今も間違ってしまった漢字を生徒に指摘されて、
慌てて書きなおしているところだった。
「そう、だからあたし確かめてみようと思うの。」
智子はメガネをキラーンと光らせた。
「どうやってどうやって?」
幸恵も結構乗り気だった。
その日、涼一は万条目を生活指導室に呼び出していた。
「万条目、“あのこと”は絶対内緒だって言ったよな。」
「はい。」
「その割には噂がウチのクラスを中心に広まってる。まさかお前・・・。」
「ちがいますっ!天地神明に誓ってあたしじゃありません!!」
「そ、そうか、それなら良いんだが・・・しかし、具合が悪いな・・・。
まあいい、幸い、ウチのクラスの女子2名がなにやら企んでる様子だ。
それにのってやることにしよう。」
涼一はウインクしながら万条目の頭をぽんぽんとたたいた。
「??」
その夜、涼一は夜勤担当だった。
1階を見まわり、2階を見まわり、3階に上ろうとした踊り場で、
その妖怪は出現した!
バレーボールにシーツを掛けたような妖怪が踊り場をふわふわと漂っていたのだ!
「ぎゃっ!おばけェ!!ふにゃあ・・・。」
山岸先生はあっけなく気絶した。
上の方から、「あれェ?」と言う声と、
「やっぱり・・・。」というつぶやきが聞こえた。
幸恵と智子の2人だった。
「ほおらぁ、やっぱ噂は噂よ。出所不詳の噂なんて信じてバカ見ちゃったわ。」
智子がボールにシーツを掛けただけの即席お化けに着けた紐を手繰りながら言った。
「おかしいわねェ・・・。絶対超能力者だと思ったのに・・・。」
智子はまだ疑っているようだった。
「やっぱりそんなのはSFの中の話、現実にはありっこないのよ。」
幸恵は言った。
ともあれ、先生をこのままにしておくわけにはいかない。
そう考えた2人は、何とか山岸先生を担ぎ上げると、
宿直室まで運び込んだのであった。
「ふう、汗掻いちゃったわ、やっぱり、小柄と言っても男の人ね。」
智子が言った。
「服もぐしゃぐしゃよ。あ、あそこの踊り場に姿見があるわ。
あそこで服をなおしましょ。」
2人は揃って姿見の前で服を直し、汗を拭き始めた。
一方その頃、宿直室では。
むっくりと涼一が起きだし、辺りに人影が無いのを確認すると、
「万条目、いるか?」
「はい。」
押入れの方から声が。
「もう出てきても大丈夫だぞ。」
「はい。」
「・・・と、言うわけだ。こうしておけば、あの噂も立ち消えになるだろう。
先生が意気地なしだと言う噂は立つだろうがね。」
最後は半分がっくりしながら涼一は言った。
万条目は少し困ったような、でも素直に笑っていた。
その時である。階段の方から叫び声が聞こえてきたのは。
時間は少し戻って姿見の前の2人。
「ね・・・ねぇ。よく考えてみたら、
こんな所に姿見なんてあったかしら・・・?」
と智子。
「こ・・こ・・この姿見、アタシ達の姿が左右逆に映ってる!!」
と幸恵が言うが速いか、鏡の中から抜け出てきた“2人”が、
こちらの世界の“2人”を鏡の中につれこもうとした!!
「きゃーーー!!!」
「しまった!階段の方だ!!万条目、来い!!」
「はい!!」
階段の所にたどり着いた時には、2人とも半分方鏡の中に引きこまれていた。
「万条目!先生と手を繋げ!!先生の“能力”を分ける。お前は智子の方を!!」
涼一の瞳は見る見るうちに赤から金色へと変わっていく。
手を繋いだ万条目の方も瞳の色が赤から淡い金色に染まっていく。
2人はせーの!で智子と幸恵を鏡から引っ張り出した。
智子も幸恵も気絶していた。
「こんのぉ!!」
涼一の“能力”のこもった光の一撃で化け物鏡はこなごなに砕け散った。
「ぜぇぜぇ、はぁ。」
智子と幸恵を救い出して、2人は息も絶え絶え、と言った所だった。
「万条目・・・お前と手を繋いで・・“能力”を使った時に先生は分かった。
君の“能力”は人と人を媒介する力、テレパシーの強力版だ。
だから、そもそも今回は、お前の思考がわずかずつ漏れ出して、
この噂になったんだ。」
「いやっ!いやっ!思考が漏れるなんて・・・テレパシーなんて・・・。
先生、あたし化け物になっちゃうのかな?」
涼一は万条目のおでこをつついて言った。
「ばぁーか、お前が“化け物”なら先生は“超化け物”だ。
大丈夫、自分の“能力”に気付けばすぐに使いこなすことが
できるようになるさ。先生みたいにな。大丈夫、先生が保証するよ。」
それにしても、さて、この2人をどうしたモンか・・・。
written by ちゃいなタカシ