『十萌ちゃんとブルドーザー』
「山岸先生〜」 うっ!と思った。その証拠に、昼休みに食べてるご飯を喉に詰まらせた位だ。 でも、今日は万条目じゃなかった。 「キミは・・・十萌(ともえ)ちゃんかぁ!懐かしい!!」 「はい!お久しぶりです!今は1年C組、双葉先生のクラスにいます!」 「で、どうしたんだい?今日は?」 「何か、この学校に流行っている話として、 テニスコートを走るブルドーザーの霊と言うのがあるらしくて・・・。」 僕は多少ずずっこけながら聞いた。 「テニスコートを!ブルドーザーがァ?」 「はい。しかも結構目撃した人がいるらしくて・・・。」 「そ・・・そうか。しかし、なんでまたそんな話を僕に・・・。」 「いや、こう言う話は山岸先生に持っていけというもっぱらの噂が・・・。」 (あんにゃろ・・・八千華か万条目の仕業だな・・・。) 「ま、まぁ分かった。先生が見ておくから、十萌ちゃんは、 これ以上噂を広げないように・・・。」 「はい!分かりました。その代わり、今夜一緒に見ていて良いですか?」 「・・・”絶対にお父さんには内緒”でな・・・はは。」 僕は暑くも無いのに吹き出る汗を拭いつつそう言った。 その夜。 テニスコート近くのグラウンドで見張っていた涼一と十萌は・・・。 ぐぐぐぐぐっと盛り上がる土、その中から這い出て来るブルドーザー! 確かにヤツは居たのだ。 「十萌ちゃん、見えてるか?」 「はい、ブルドーザーがぐわわわわっと・・・。」 『やっぱり十萌ちゃんにも“素質”があるのか・・・。』 ブルドーザーは、テニスコート近辺の地面を均しながら、 くるくると回っている。 このままなら確かに害は無いが、余計な噂がこれ以上広がっても困る。 僕は、テニスコートに足を踏み入れ、念を込めた。 強まる“力”。瞳の色は赤から金へ・・・でも、それ以上の“力”が!! キン!!という音と共に力ははじき返された。 『僕は埋められるために産まれたんじゃないよぅ・・・。』 その時、瞳を赤に光らせた十萌が叫んだ!! 「このブルドーザー!自分のやり方を全うせずに、 この辺の埋め立てに伴う急激な地盤沈下で、半分方沈んで、 結局この地に埋められてしまったんだって言っています!! そのままやらせてあげて下さい!!」 僕は“力”を抜いた・・・。 『ありがとう・・・僕はここでもう少しだけ地ならしをしていくよ・・・。』 ブルドーザーは辺りを暫く回ると静かに地中に消えていった。 「十萌ちゃん・・・キミも“力”を・・・。」 「ごめんなさい・・・黙っていて。小さい頃から気付いてはいたの。 でも、こういう“力”が外に漏れると困るのは皆同じでしょう?」 「ありがとう・・・ありがとう。」 僕は十萌ちゃんを抱き締めていた。 と、心配して十萌ちゃんを迎えに来たらしい日野出先生が・・・。 「お・・・オマエは何をしとるカァーっ!!!」 僕の女難の相はそうとうに続くらしい・・・。 ☆
written by ちゃいなタカシ