「山岸先生〜!!」
あ、そうか、僕は先生だったんだ。
涼一は、2日前から母校の、
懐かしさ一杯のここで教育実習をしていたのであった。
勿論恋人の双葉も一緒である。
ついでに言うと、何故か八千華もいっしょであった。
残念ながら当時の担任の九段九鬼子先生は
結婚退職しておられていらっしゃらない。
・・・思い出はここまで。
呼びに来た女生徒は確か・・・万条目といったかな。
校内でも評判の美少女と言う噂だ。
「なんだい?万条目?」
「双葉先生と八千華先生が喧嘩してますぅ〜。」
「・・・またか・・・わかった。先生がいく。」
「こぉらあ!生徒の前では喧嘩しないってアレほど言っただろうがァ!!」
「だってぇ〜、双葉のヤツがいけないのよ。
このプリントの足りない点をヤマギシに聞きに行くって・・・。」
「だ〜っ、なんでソレが喧嘩になるんだッ。」
「あの・・・」
「はっはいっ?」
「痴話喧嘩こそ職員室で最もみっともないものなんですが・・・。」
年配の太田先生が冷静に言う。
「はっ・・・スミマセンでした・・・。」
とりあえず3人ともしょんぼりした風を装って職員室を出た。
とはいえ、喧嘩は続いていたのだ。
「アンタの所為で怒られたじゃないの!」
「なにおぉ?元はと言えば・・・。」
「だ〜っ、だからやめぇっ。廊下で喧嘩すな〜!!」
・・・と言うようなトラブルを除けば、教育実習は割合順調に進んでいた。
僕の担当は3年生、受験を控えた微妙な年頃だったんだけど、
まぁ、何とかここまではやって来れた。
ちなみに僕の担当は九段先生と同じ国語科だ。
双葉は英語、八千華は何と理科だ。
事件が起こったのは教育実習も始まって2日も過ぎた夕方、
掃除が終わって、部活の無い生徒はほろほろ帰る頃合だった。
「先生〜!山岸先生〜!」
また万条目だった。
「うん?なんだい万条目?また双葉と八千華の喧嘩か?」
「そんなんじゃないんです!!トイレが!トイレが!!」
「トイレが?」
「とにかく来てもらえば分かります〜、来て下さい〜!」
行ってみると、女子トイレで今一人の生徒が
スカーフで首を括ろうとしている最中であった。
「やめろっ!!」
僕は慌てて首際のスカーフを払って、彼女を受け止めた。
「先生!見て!!」
万条目の指差す方向には、「括れ〜括れ〜」という
霊体の集合体のようなものがいた・・・。
『万条目の目には見えているのか?』
とにかく退治だと思いなおし、
10年ぶりであろう“力”を使うことにした。
「先生!目が!!」
涼一の瞳は茶色から赤に・・・そして金色へと変貌していった。
“力”を使う証拠だ。
「やっ、払え!!!」
ばしん!という音の後は、何事も無かった。
ただ呆然とする万条目と、くたっとのびた女生徒。
「先生・・・。」
よほど怖かったのか、万条目は僕が廊下に女生徒を下ろしたとたん、
涼一に抱き着いてきた。
「怖かったのか・・・すまなかったな。でも。
世の中にはああいう“見えない”モノも居ると言うこと、
そして、万条目の目にはそれが見えてしまう、と言うコトを覚えておけ。
だが、怖ければ先生がいつでも払ってやる。安心しろ。」
「先生!先生!先生!!」
万条目はむしゃぶりついて泣いていた。
「あ〜っ!!ヤマギシィ!!」
「山岸君!!これはどういうこと!!」
「いや・・・コレは・・・。」
僕の女難の相は当分消えることは無いのかなと思いつつ、
すんすん泣く万条目を胸に、言い訳のイチから考えていた・・・。
☆
written by ちゃいなタカシ