これは,友人"やす"からもらった,『ガンドレス』の感想。わしは見てないので,書いてもらったのだ。

その名は未完成。


りっとんばい やす

 ガンドレスですわ。ねぇ。

 新聞の小さな記事を見るまで私の守備範囲になくって、内容も監督の名も知らないようなものだったさ。

 「一部未完成」というのが、劇場用映画で起こってしまうアニメーション。専門学校で楽しく(?)作画技法を教わってたころに聞いた「業界の産業空洞化」が実体を持って現れたのかも知れないな、と、急に確かめに行きたくなったのですわ。

 で、一人で行くというのもリスキー(ノれないとショックでかいし)なので、市川市の知人「侯爵」と示し合わせて銀座に行ったのですわ。丸の内シャンゼリゼ。

 劇場窓口で、もう白い紙が貼ってあるのが緊張感で、
「ガンドレス1枚」
というと、
「こちら未完成作品ですが、よろしいですか」
「ええもちろん」
つけ加えて、
「入場後の料金の返却はできかねます」
ときたのですわ。

 不安じゃん。上映場所地下だし。侯爵と私の足下に受付のおねいちゃんが見えてるところ、横の鏡張りの壁の真ん中にもさっきの貼り紙が。階段を降りる。おねいちゃんに改めて、
「こちら未完成作品ですが、よろしいですか」
こちらも
「ええもちろん」
と、
「それではこちら、完全版のビデオを送付いたしますので、よろしければご覧になったあとでご住所を」
紙を渡される。

せっかくの資料だ。全文引用してみよう。

『ガンドレス』をご覧になる方へ

[お詫びとお断り]
 本日は、ご来場ありがとうございます。

 今回上映いたします映画『ガンドレス』は、鋭意製作を進めてまいりましたが、誠に残念ながら不完全な形で公開せざるを得なくなりました。深くお詫び申し上げます。

 ご覧いただく方は、*複数箇所に不完全な部分があることをご納得の上、ご入場ください。*(注:*〜*下線あり、*は私の書きたしです)

 (ご入場いただいてからの料金の返却はいたしかねます。)

 本日ご覧いただいた方には、後日完全版ビデオを送らせていただくことで、お詫びと代えさせていただきます。下記の欄に、ご住所・お名前・電話番号をご記入いただき、劇場係員にお渡し下さい。なお、有料入場者に限らせていただきますのでご了承ください。

 完全版ビデオの発送は8月頃になる予定です。

  製作:『ガンドレス』製作委員会(日活株式会社ほか)
  配給:東映株式会社

 ●ご住所、連絡先に変更があった方。ならびに発送に関するお問い合わせ先
  пi注:本物は電話機のマーク):03(5689)1007 日活(株)統括室

 [この用紙の有効期限:1999年8月31日]

 (この下に劇場名やら受付番号やらが続いて、住所等記入欄になってます。ところで、我々は有料入場者そのものなのでトラブらなかったけど、ひょっとして前売り券の人のことを除外しているのですか? だったら最悪やね)

 都合、入場してイスに座るまでに3度、警告を行うわけですわ。受付の人の後ろにはスーツの、ひょっとしたら偉い地位の人かな、てのが我々に頭下げてるし、ロビーも静か。殺気といってもいいような、そんな空気の中プログラムを購入して、ホール内には人もなく、好きなところに座ることができます。前方の中央、ばっちりど真ん中ってかんじで座を占めました。ほとんどすぐに上映開始ですわ。場内暗転。

 新作映画の宣伝の流れる中、侯爵と私は「どういうテンションで観ればいいのだろう」と思って待ってました。

 さあ始まりです。

 いきなり擦り傷のついたセルを使ってしまったヘリコプターが登場したとき、
「こりゃ酷いことになってるぞ」
というのは観ている誰もが気づいたことだと思います。最初に捕まる武器商人の護衛一行の酷いつらにがっかりする暇もなく、次々にすごいものが提示されるのですわ。お好み焼きをすごい勢いでかき回すミシェル・イガ、動くたび色の変わるマルシア・アサノ、ひたすらS字を描いては戻るタバコの煙、そして何より臨場感を台無しにする遅れまくったSE(ことさらに爆発・着弾・ロック音)、始まってごくごく浅いここまでで、「完成した」部分など一つも見あたりませんでした。

 それでも、走り出したら止まってはくれないのが電車と映画ってことで、時は進むのですが、ついに、着彩をあきらめた絵が登場しました。それは、キャラクターの首から上を皮膚の色で、下を服の基調色を一面に塗ったくった者として我々の目前で演技しています。指紋の消してないセルや刷毛跡の出ている塗りそこねをすでにみせられていたのでショックは小さかったものの、これはもうシュールですわ。

 アリサ・タカクラの身体が人工物に変わる事件に関わる、テロリストだか殺しやだかが背中に手下を従え、長い通路を滑っていく。手下の方々は足で歩いているような上下動、彼だけコンベアに乗っているらしい(侯爵の解釈)。

 さらに時は流れ、アリサちゃんは敵につかまっちゃいました。イスに縛られて殺し屋に首の後ろのコネクタジャックを触られるアリサ。何とそのジャックがさっき観たものとデザインが違っています。大勢で描くものとしてやってはならないのが、「キャラ化け」と呼ばれる勝手な変更ですが、このジャックに関しては最後の方でまた違うものになってました。

 敵地に潜入する主人公グループ。察した殺し屋は侵入路を爆破します。海底トンネルが壊れ、背後から水が迫ってきます。あっ、突然青い下敷きを重ねたような表現。それはひょっとして、水に沈んだってことでしょうか。

 列挙するのも疲れてきます。このほか、最後まで口と声は一致せず(一ヶ所だけぴったりあっていたのが逆に変)、色トレスだってのに実線で描いちゃった口紅、また顔からはみでる大きな口、なんてのが目につきました。

 お巡りさんがヘリで助けにきて、思い出の時計をアリサちゃんが海に投げてエンディング。さあ、どんなことになってしまったのかスタッフをちぇきちぇき!

 監督の谷田部勝義さんってえと、サンライズの諸作品で結構お馴染みの人ですが、なんで音響監督までやっているのでしょう。通常の作品では、専業の音響さんがそこにいるのに、とか、こんな所にことぶきつかさとか言ってみてるんですが、エンドロールのあちこちに空白があるのですわ。これは完成にいたる前におりた企業や製作がここにいたのだなと思いました。

 最後に、『ガンドレス』のロゴがゴンというSEとともに画面を占め、フェイドアウトしつつ場内明転(こんな熟語あったっけ?)。内容もしまらないんだけど、最後のこれは……、しまらなかったねぇ。

 で、振り向いてみれば場内には10人前後、多くても12人の観客がいる(我々含む)。いろんな意味でかみしめているのか、なかなか席を立たないが、追い出しの声を受けぞろぞろ。表にはまたスーツのおじさんが立ってて、前を人の通る都度小さくおじぎ。我々2人、もらった応募券に住所氏名電話番号を書き残して、表に出るときまで、はっきりと感想に触れることは、さすがにためらわれました。

 笑えないほどの惨状です。一部未完成ではなく、完成部分が一ヶ所なのでした。ちょっと前にTVアニメでも程度を超えた未完成品が出たことがあったけれど、この規模はそれを上回る事件です。アジア諸国に作画を任せることで起き得る全てのトラブルを集約したかのような、「業界の産業空洞化」が、ああ。

 完全版のビデオが8月までにできるということは、この作品が完全な形、本来思う完成形に辿りつくってことは、もはやありえないのですわ。だから今のうちに決めておかなくちゃ。

 もし、ちゃんと仕上げてあったなら、多分そこそこ楽しく観れたろうものでした(脚本および役者さんたちはよくやってたように思う)。不況下に大損害の製作の方々、動員を見込めない映画館の苦悩を、思わず私が考えこんでしまうほど、ごめん、救いようがないや。

 以上。

1999.03/23接触、03/29筆。


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